啐啄同時

若手研究者を応援するオヤジ研究者の独白的な日記です。

(日) 脳オルガノイドの限界ー脳の進化を考える。

今日(2020年11月29日)から2日間に亘って「」第3回遺伝学研究アラブ学会(The 3rd Conference of the Arab Association of Genetic Research (AAGR))が、zoom で始まりました。パネリストで登録されているため、朝9時から夜8時半まで拘束されてしまい、聴きながら多少は仕事するにしても、やはりこのようなヴァーチャル学会はとても大変なことを実感しています。

 ただ、最後のセッションが「神経遺伝学(Neurogenetics)」だったので、シングルセル・ゲノミクスのアポローチが脳オルガノイド研究とともに、ヒトとその他の霊長類およびマウスの比較研究がなされ、脳の進化にいよいよ向かう入り口に立ってきたように思います。

 ただ、有望視されていた人工的に3次元の脳組織らしくものを作成して、脳の発生を考えた進化比較研究の将来展望は明るいかと思いきや、やはり遺伝子発現レベルではかなり異なるようです。

 Professor Arnold Kriegastein at UCSFの講演は、さすがに面白いものでした。

オルガノイドを用いたヒトの脳の発生モデルは、生命の初期段階を忠実にモデル化するという点で十分とは言えず、さらなる改善が必要だという考えを示す論文が掲載される。」

「皮質オルガノイドは、実験室で培養され、3次元構造へ自己組織化する細胞塊のことで、発生段階のヒト大脳皮質の特徴をモデル化したものだ。このようなオルガノイドモデルは、脳発生の研究で利用されることが多くなってきているが、発生段階の脳とオルガノイドモデルに存在する細胞や分子のカタログの比較がほとんど行われていないため、オルガノイドモデルがどの程度正確なのかが明らかでない。今回、Arnold Kriegsteinたちの研究チームは、この論点に取り組むために、発生段階のヒト皮質から採取した約20万個の個別細胞の遺伝子発現プロファイルを記録し、それを参照リストとして用いて、オルガノイド培養物の正確性を測定した。」

「ヒトの脳内細胞とオルガノイド培養物には、いくつかの重要な違いがあった。ヒトの脳内細胞は、発生の過程でそれぞれ異なる軌跡をたどって、広範で多様な細胞サブタイプの集団を形成するが、オルガノイド培養物からは、成熟度の低い細胞種が生じる傾向が見られた。ヒトの脳細胞には領域特異的な特徴があり、皮質内の位置に依存しているが、こうした空間的構成がオルガノイドにはなかった。数多くの種類のオルガノイドを培養できるようになっているため、Kriegsteinたちは、今回の研究とそれによって得られるカタログが、他の研究者がそれぞれの組織培養系の適性を評価する上で役立つことを期待している。」

との解説が2020年1月30日号で行われた、彼の論文は2020年1月29日号のNature Articleで発表されました。

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 なお、教授は現地時間の明日(2020年11月30日)の午前10時半から「COVID-19 Mutation Tracker」と題して新型コロナゲノムからみた特効薬の開発と強毒化突然変異のモニタリングについて講演します。久しぶりのウイルスのゲノム進化に関連する研究発表です。

 昨日まで「生物の科学 遺伝」の2021年1月号「新型コロナウイルス」特集号の総括文原稿の脱稿を行い、今日と明日はこの国際シンポジウムで自身の講演の準備に時間を取られております。

 その2日後には、前NCBI所長のDr. David Lipmanのコーディネーションによる米国カリフォルニア州・米国ワシントンDC・イギリスのケンブリッジ近郊のヒンクストン・中国の北京・サウジアラビアのジッダを繋いだASM (米国微生物学会)の最終セッションでパネルディスカッションで発表の録画撮りがあり、その準備でも忙しくなっています。

 時間との戦いがここのところ引き続いており、体力がどこまで持つかの耐久レース化してきました。これは健康によくないと分かっていても、切羽詰まるとこうなってしまうのは仕方ないのでしょうか。また、報告をいたします。