啐啄同時

若手研究者を応援するオヤジ研究者の独白的な日記です。

non-coding領域の機能と、中立進化への理不尽な批判

 JBS Haldane博士のCost of Selectionの論理から、ヒトゲノムの多くの領域は、中立的な進化をしていると提唱したのが遺伝研が誇る木村資生博士です。
 もし偽遺伝子のように機能が全くなければ、もちろん「中立進化」をします。しかし、「中立進化」をする遺伝子やDNA領域には、機能がないという論理は間違いです。つまり、必要十分条件を構成しません。
 本当の「中立」の定義は、木村博士が何度を記述しているように、「機能の重要性が同等」ということです。より正確に言うと、機能を持っていようが持っていまいが、対象とする遺伝子やDNA領域の相対的適応度が「1」であることです(つまり、有効個体数Neと淘汰係数sの積の絶対値が1以下であることです。|Ne・s|<1)
 さらにいいますと、中立論争の双方とも、負の淘汰はどこにでもあると認めていたので、正の淘汰があったかどうかが最大のポイントとなります。
 したがって、non-coding領域に機能があることで、中立進化が間違っていたような言い方をすることが、「間違い」なのです。これは、しっかり押さえておきましょう。
 そのうえで、「中立論争の再燃」がnon-coding領域で起こりつつあるように思います。このような正しい理解の下で、大規模で適切なデータ解析やモデル計算などを行って、しっかりした議論をおこなうことが肝要です。