啐啄同時

若手研究者を応援するオヤジ研究者の独白的な日記です。

作家・松本侑子さん

 このブログで本年4月21日(木)に紹介しました松本侑子さん著の「恋の蛍〜太宰治と山崎富栄〜」を完読しました。既に、拾い読み的な形で大体は読んでいたのですが、今回、きちんと読みました。
 さすがに、新田次郎文学賞を受賞するだけあって、非常に読み応えのある作品でした。玉川上水太宰治と心中入水する山崎富栄に降りかかる事実無根の風評を、ドキュメンタリー的に検証して払拭し、世間的に屈辱を受けながら生涯を終えていく彼女の父・晴弘さんと母・信子さんに捧げる鎮魂歌という作品です。
 そして、その背景に、戦争に翻弄されるそれぞれの日本人の宿命的な悲劇があることを鋭くつきます。文豪・太宰治もその一人に他ならなかったのでしょう。
 推理小説のような論理検証ではなく、むしろ資料と証言で綴っていくドキュメンタリー的でありながら、その場にいるような虚構の会話の設定。たしかに、単なる「小説」ではない、何か「再現ドラマ小説」のような新しいジャンルを切り開いているようにもみえます。
 また、太宰治の「読んでいるその人にだけ語りかけるような文筆タッチ」の起源が、彼が幼いときに習い覚えた浄瑠璃にあり、そして、その心中物への憧憬がずっと刷り込まれていたのかもしれません。
 この著者の松本侑子さんの追跡・情報収集能力と筆の力量に、感服しました。細かな手法や詰めのあり方などは異なりますが、「科学研究もかくあるべし」といったことも大いに参考になりました。
 教授も、執筆の仕方にこのところ悩んでいますが、この作品で大きく勇気づけられました。
 ちなみに、この松本侑子さんは、久米宏さんがニュースキャスターをしていた番組「ニュースステーション」の初代お天気キャスターであったという経歴の持ち主。「赤毛のアン」の翻訳者としても知られています。
 すっかり、教授は松本侑子さんのファンになってしまいました。ご紹介いただいた田熊先生、どうもありがとうございました。
(松本侑子さんのホームページ;http://homepage3.nifty.com/office-matsumoto/)
(松本侑子さんの画像;http://image.search.yahoo.co.jp/search?rkf=2&ei=UTF-8&p=%E6%9D%BE%E6%9C%AC%E4%BE%91%E5%AD%90)