啐啄同時

若手研究者を応援するオヤジ研究者の独白的な日記です。

(水) オミクロン株の起源を考える

 新型コロナウイルスのオミクロン株の起源を考えることは、この変異株がどういう性質を持っているかを論理的に推測し、それに対する科学的で非常に有効で効率的な対策がとれることになります。

 オミクロン株のゲノム配列データは、ドイツのGISAIDというデータベースに一番完備された形で格納されています。このデータベースは完全に重要な公開の原則を持っていないので、国際的な公共データベース(Public Databas)と言われるDDBJ/EMBL/GenBankとは相容れないところがありますが、その話はいずれ別の機会に行いましょう。

 このGISAIDデータベースには、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の全ての株のゲノム配列データが格納されており、現在500万以上の単離株(感染者から単離されたウイルス)が入っているおり、日々すごい勢いで増えていっています。

 その中でも、オミクロン株のゲノム配列データは、12月5日頃の時点では約200程度の数の単離株であったのに、12月10日頃には約500余りの単離株となり、12月17日頃には5000を超える単離株にもなっていました。

 ちょうど、12月27日に公益財団法人・遺伝学絵普及会主催の「寺deサイエンス」というサイエンス・カフェで「新型コロナウイルスの進化と変異という題目で教授が話をさせていただき、このオミクロン株のゲノム配列データを取り入れた新型コロナウイルス系統樹を構築して、参加者の方々に見ていただきました。

 特に、5000のオミクロン株の全ゲノムを取り入れて、デルタ株やその他の代表的な変異株のゲノム配列データとともに構築した系統樹は、圧巻であったと思います。

 そして、その系統樹からこのオミクロン株の起源を辿ってみてみますと、オミクロン株はデルタ株から直接に最近分岐し派生して出てきた変異株ではなく、アルファ株やそれらと共通祖先を共有する株から由来していることが、一目瞭然として分かりました。

 そして興味深いことに、この系統樹によると、全てのオミクロン株のゲノム配列は上述した祖先から一本の直線のように長く枝が伸びて、その末端のところで平たく大きく広がっているように見えます。

 どこか長く隔離されていたようなところで増殖し、ゲノムに突然変異を溜め込んだ後、ごく最近になって広く様々な人々に感染し、そこで激しくいろいろな突然変異を起こしてさらに広がっていっているように見えます。

 最近のサイエンス誌には、まだ数少ないオミクロン株のゲノム配列データを取り入れて構築した系統樹が示されていますが、それも大体同様な特徴が示されています。

 そこから見えて来るオミクロン株の起源の様子が的確に捉えられています。つまり、オミクロン株は、最近になってこの患者から何らかの形で他の人々に感染し、それぞれの人達ひとり1人の中で多くの変異を次々と起こし出していっているという考え方が合理的に思えます。

 この考え方すると、免疫不全患者の体内に長期間に亘って存在していたとすると、そのような変異株が宿主である人に大きな悪さをしたり悪影響を与えるほどの病原性を持っていては存在できないので、病原体性は弱くないといけないことになります。