啐啄同時

若手研究者を応援するオヤジ研究者の独白的な日記です。

分子集団系統遺伝学の誕生

 分子系統学と分子集団遺伝学は、後者は前者の基盤という形で密接に関係していることは明らかでありますが、その二つの学問は明確に分かれていたと思います。
 つまり、分子集団遺伝学は、生物集団の遺伝的な多様性の分子レベルでの保持機構を解明しようという学問です。一方、分子系統学は、生物種や地域集団の系統関係を分子レベルで解明しよう学問です。
 現在、分子系統学と分子集団遺伝学のこのふたつの学問が融合せざるを得ない状況になってきています。例えば、ヒトで言えば、個人の系図であろうが、地域集団の系統関係であろうが、種としての他の類人猿あるいは霊長類における系統樹構築であっても、集団の有効サイズやその変動、まさにコアレッセンス理論の直接的な導入なくしては、正当な系統関係を知ることができなくなったこと意味します。
 とくに、ゲノム時代に突入し、長い塩基配列さえ手に入れば正しい系統関係が分かると単純に考えていたところが、必ずしもそうでないことが分かってきただけではなく、concatenationと言って例えば異なる遺伝子領域を長くつなげて解析するよりも、個々の遺伝子ごとに系統樹を構築しその多数決で系統関係を決定する方が遙かに正しい系統関係を得られることが分かるなど、この「分子系統学+分子集団遺伝学」は驚くべき新しい知見を与えてくれるようになってきました。
 教授は、ここに「分子系統集団遺伝学」という新しい研究分野が誕生したと思っています。英語名からすると、「Molecular Population Phylogenetics」と言うとすると、「分子集団系統遺伝学」と言ったほうが良いかもしれません。