啐啄同時

若手研究者を応援するオヤジ研究者の独白的な日記です。

「インシャラー」の世界

原油価格がまた下がってしまいました。1バレルが180円といった状況は、もうあり得ないことは誰でも分かっていますが、それでもドバイ市場で1バレルが50円以上にはなって欲しいと、サウジアラビアにいると真に思います。
カタールの大きな研究所では、研究者の大量解雇が行われ、給与カットもあったという話をよく聞きます。その確認はできていませんが、その研究者の人達の何人かがサウジアラビアの教授のいるアブドラ国王科学技術大学(KAUST)に応募したとかという噂を聞けば、さもありなんと思う次第です。
アブドラ前国王の先見の明の凄さでしょうか、教授のいる大学のKAUSTは、アブドラ前国王の超巨額な寄付金がサウジアラビア国外で運用されているため、中東経済の不況とは基本的に無縁で、研究費や給料など全く影響を受けていません。
実は、サウジアラビア政府は、赤字予算を組んでほとんどの経済発展の様々な工事などを予定通り継続しています。したがって、ドバイの世界一高いビルを抜く高さ1000メートルの高層ビルのジッダでの建設やジッダ新空港ターミナルビルの建設、そしてジッタからメッカ・メジナへの高速鉄道の建設も、引き続いている状況です。
しかし、KAUSTの外のサウジアラビアの国立大学の多くでは、研究費の削減があったようで、研究費の確保に苦しんでいるようです。そういうこともあって、サウジアラビアの大学からKAUSTへの共同研究の申し込みが増えてきているようです。
また、世界最大の原油会社のサウジアラムコもその研究費総額を40%削減しており、静かに原油価格の上昇を待っている状況のようです。それでも、長期継続的な投資が必要という分野には研究開発費を惜しまない方針を示しています。
とにかく、いいも悪いも含めて、次に何があるか分からないのが、このサウジアラビアというか、アラブの世界。「Expect the unexpected!」という「期待しないことを期待しろ!」の意味の格言を、再確認しましょう。
アラビア語で有名な文句「インシャラー」というのがあります。日本語でいえば、「明日は来ます、インシャラー。」というように使います。「明日は来ます。」とどこが異なるかというと、「インシャラー」が付くと、「明日は来るかも知れないし、来ないかも知れない。(神のみぞ知る!)」という意味になるのです。
このインシャラーこそが、このアラブ世界の本質と言えます。このインシャラーの世界が少し分かってくると、あらゆる方向性で準備をする必要性を痛感します。これは、日本や他の世界からすれば、コストと時間がかかり過ぎて、ほぼ対応が無理となってしまうのでしょう。でも、カーボン資産と言われる資源資産を地下に抱えるサウジアラビアは、経済発展の手綱を緩めることなく前に進むことは間違いありません。サウジアラビアがロイヤルコート主導で最近発表したと「ビジョン 2030」は、その前進の前提となっているのです。