啐啄同時

若手研究者を応援するオヤジ研究者の独白的な日記です。

遺伝研 公開講演会2010

本日、午後、秋葉原秋葉原ダイビル秋葉原カンファレンスホールにて、遺伝研主催の講演会と大学院説明会がありました。

実際には、「国立遺伝学研究所 公開講演会2010 遺伝学でひもとく生命の謎」と題しての講演会と「総合研究大学院大学 生命科学研究科 遺伝学専攻」の説明会のふたつを前後して行ったものでした。

講演会は、遺伝研の3人の教授が、以下のような形で講演しました。
細胞遺伝研究部門 小林武彦教授 「老化はなぜ起こるのか?」
発生工学研究室  相賀裕美子教授「精子幹細胞を生み出すオス化因子」
集団遺伝研究部門 斎藤成也教授 「進化するゲノムたち」

その後、各研究室のポスター発表とその説明会が行われました。

 研究室紹介の残念

長かった海外出張帰りの疲れを引きづりながら、鈴木善幸助教名古屋市立大学教授でこの10月に転出したばかりだし、池尾一穂准教授には留守中かなりの無理をお願いし続けていることもあって、教授自身が出席しました。

講演会は全部出席できませんでしたが、用意した席はほぼ満席。講演会は、話す講師陣の質の高さもあって、盛況でした。

ただ、講演会が終わるや否や、これから各研究室のポスター発表というのに、半分以上の聴衆の方々が続々と、せっかく用意されたポスターには横眼も触れず、ご退席。教授は、このポスターの説明のために、わざわざ来たに・・・と、いささか残念な思いでした。

教授の研究室のポスターには、学生さんが一人聞きにきてくれただけでした。でも、朝日新聞の杉本記者を始め知り合いの人たちが「私服」で数人訪れてくれました。来ていただいた皆さん、ありがとう。教授は本当にうれしかったです。

また、遺伝研の事務職の皆さん、御休みの日にもかかわらず、本当にご苦労様した。事務の方々が、よくやってくれていました。ありがとうございました!

若い人たちの方向の決め方

多くの学生さんや院生の方々は、基本的にはホームページなどを調べて、進路や転身先を考えるのでしょう。

皆さん、しっかり調べて進路や転身先を決めてください。
教授のsuggestionsは、
原則1)やりたいことがあったら、その分野で世界一のところへ行け!
原則2)それが無理なら、世界でその次のところに行け!
です。

身近な周りだけの情報や、短期間の人生設計だけで、大事な方向を決めると大変です。なぜなら、進化と同じように、長い人生ですから、予想のつかない大きな環境の変化も多々あり、その場その場の適応だけでは自然淘汰に生き残れません。まあ、「運」もありますが。

 世界を目指す日本の先生の門を叩け

しっかり考えて、自分のやりたいことをある程度はっきりさせましょう。完全にはっきりさせることは無理でしょうから、「ある程度」で結構。そしたら、英語で関係するキーワードを調べ、面倒でもGoogleの英語版やPubMedで、世界の動向を調べましょう。日本の先生でも世界的にしっかり仕事をしている人たちは、どんどん英語で名前が出てきます。

「世界一」や「世界二」の先生は、日本にも多数おられます。大学の名前や場所にこだわらず、そんな先生の門を叩きましょう!

 「問題」が問題

理由は、「Questions are more important than answers.」という言葉にあります。つまり、くだらない問題に、膨大な時間と労力を費やして答えを出したとしても、もともと問題が悪いので、その答えは大したものにはなりません。教授は、これを「知性の無駄遣い」と呼びます。

いい問題、つまり非常に重要な問題は、(即、解くのが難しいと誤解されがちですが、必ずしもそうでもありません)解ければ大きな貢献になります。

つまり、解く価値のある問題に挑戦するということでしょう。もっというと、一生かかっても解けないような問題は、逆に「いい問題」とは言えません。

Manfred Eigen先生の教訓

教授は、自身が40歳のころ、ドイツのGottingenという街のManfred Eigen先生にご招待をいただいて、Max Plank研究所で講演をさせていいただきました。講演終了後、ディナーのためのレストランに連れて行っていただく前に、教授をEigen先生のご自宅に招いていただきました。そして、素敵なテラスで二人だけでシャンパンをごちそうになったことを思い出します。

上質なシャンパンのせいでほろ酔い気分になった勢いもあって、ちょっと「ミーハー」な質問を、Eigen教授にしてしまったのです。「先生、どうしたらノーベル賞をもらえるような研究ができるのですか?」と。教授も、若かったということでしょうかねえ、こんな単刀直入な質問をして。

でも、Eigen先生の答えは、今もしっかりと覚えています。
「3年以内に解けそうな問題は、やらないほうがいいです。でも、10年以上もかからないと解けそうな問題もやりなさんな。」と。
つまり、「いい問題」を選びなさいということでした。

世界的な研究者は、この「いい問題」に取り組んでいる場合が非常に多いのです。もちろん、例外もありますが。

 Eigen先生のノーベル賞メダル

Eigen先生に、実はもう一つ失礼な質問を、ほろ酔い気分の流れでしてしまいました。「ノーベル・メダルを見せてください!」と。これは、今思うと、本当に教授の「若気の至り」の質問でしたね、すみません。

しかし、この質問に対するEigen先生の答えが、驚くべきものでした。

ノーベル賞のメダルは、持っていません。」
「そうですか。それでは、博物館にでも置いてあるんですか?」
「いいえ、盗まれたんです。」

「えっ!ノーベル賞メダルを盗まれたんですか?」
「そうなんですか?それは、大騒ぎになったんじゃないですか?」
「そうなんです。ドイツの新聞の一面には載るは、テレビやラジオでも取り上げられて、実はドイツ国中の大騒ぎになりました。そして、国中をあげて探してくれたのですが、結局見つかりませんでした。」

ノーベル賞委員会は、メダルを再発行してくれないんですか?」
「してくれないということでした。いや、ノーベル賞メダルは問題じゃあないんです。その賞をとったような仕事ができたことが大切なんです。」

といったような会話をしたことを、今も鮮明に覚えています。

夕方になって、Eigen先生がニューヨーク・フィルハーモニーと共演して自身のピアノ演奏をLP盤(昔のLong Play用のレコード盤)にしたものに、ご自身のサインまでしてくれて、それをお土産としていただき、ご自宅を離れました。そして、夕暮れのGottingenの素敵なレストランでディナーをEigen先生に御馳走になった次第でした。

「問題」の選び方の重要さを教えてくれたEigen先生でした。