太宰は、確かに「老ハイデルベルヒ」(1942年、竹村書房)という短編の小説を書いています。読んでみてびっくりしました。
まず、書き出しが、「八年まえの事でありました。当時、私は極めて懶惰(らんだ)な帝国大学生でありました。一夏を、東海道三島の宿で過したことがあります。・・・」で始まります。
何と、小説の舞台は、静岡県の三島市なのです。「斜陽」を伊豆三津浜の安田屋旅館で、「人間失格」を熱海の起雲閣で執筆したことは有名ですが、「老ハイデルベルヒ」という小説は、三島が舞台の話とは全く知りませんでした。