啐啄同時

若手研究者を応援するオヤジ研究者の独白的な日記です。

「海外留学」から「頭脳輸出」へ

<海外留学者の連続的な減少>
2010年に海外留学した日本人は前年に比らべて3.1%も減少し、5万8060人であったとの文部科学省の時計が出ました。2004年から6年連続の減少で、グローバルな人材の将来的な枯渇に危機感で出てきています。
 特に、米国などを見ますと、いたるところに勉強熱心な中国人留学生がおり、その対照には驚ろかされるほどです。

<日本の貿易赤字と欧米の改善>
 また、日本では、火力発電用の燃料の輸入が増え、貿易収支が赤字になってしまいました。
 これは、シェールガス革命で貿易赤字の改善を強める米国(米国の貿易赤字の約6割がエネルギー分野と言われています)や、内需不振で輸入が減って輸出が上回るという皮肉にも貿易黒字幅を拡大する欧州と比べると、日本の貿易赤字のもつ意味合いがよく分かります。
 つまり、日本の立ち位置が欧米とまさに逆転してきたということになります。

<「円安」と貿易赤字の関係>
 輸入の支払いのために円を外貨に換えねばならない(円売り)ほうが、輸出の成果として得た外貨を円に換える(円買い)よりのほうが増えているため、急速な「円安」にもなっていると考えられています。
 これは、また、日本から海外に投資されたキャピタルに対する利子や配当が日本に入ってくることを差し引いても、円を外貨に換えなければ間に合わないという状況になっていることを意味します。

<「円安」の流れ>
 ただ、この「円安」は国際的な日本企業には確かに追い風になるようですが、いままでの「円安」で極端に疲弊し国際競争力を失って来ている日本企業が、どこまで追い風にできるかは疑問で、今後も輸出は伸びにくいと悲観的な観測をする専門家も多いようです。

<貯蓄率が世界20位に転落した日本>
 さらに、日本人には莫大な貯蓄があると思っていたところ、世界の貯蓄率ランキングからするからすると、日本はなんと世界20位にまで転落しているとのことです。
 たしかに、老齢化社会で熟年層の旅行や娯楽への消費が盛んで貯蓄を食いつぶしており、さらに東日本大震災の経験による「人生観」の変化により「世の中何が起こるか分からないから、元気なうちにお金を使おう」という考え方をする年配の方々が増えてきて、この貯蓄率の減少に拍車をかけていることは間違いないようです。

<外貨獲得の日本企業の努力>
 つい最近までの超「円安」の時代、街の小さな中小企業さえ海外進出を果たし、オフショアとしての生産拠点はもちろんのこと、その製品を売る市場までも海外とする海外移転が、大きく加速しました。もうこの流れは引き戻せないでしょう。
 つまり、今後よほどのブレークスルーが国内にないと、国内だけでの事業ではどうにもこうにも進まないことは自明なことのように、企業は考えて海外進出の手を打ってきているのです。

<頭脳輸出>
 科学における研究活動や技術開発の分野においても、「海外留学」や「頭脳流失」とかではなくて、頭脳の輸出を図って日本との共同研究などを促進し、外貨を活用した研究や開発の活動を活発化させていく必要がでてくると思います。
 また、そのことは、アカデミックなポジションも相対的には大幅に増えることを意味し、若い研究者の活力維持にも役立つでしょう。
 そして、日本と外国とでポジションの流動性を高め、日本にいつでも帰国して研究できるような態勢を構築していくことが必要と思います。

<海外で「プレーする」と言えるための「頭脳輸出」>
 プロ野球の大リーグであったり、プロサッカーの日本のJ1選手のように、海外で活躍し同時に日本代表としてしてワールドカップやオリンピックで「日の丸」を背負って戦えるような体制が、科学技術の研究者達にも必要になってきていると思います。
 そのことによって、日本のプロサッカーやプロ野球は、格段の向上をみていることは言うまでもありません。
 逆ながらも、同じような「体力輸入」をいち早く図って大成功しているのが、「大相撲」ともいえます。名代の大横綱となろう「白鳳」や新進気鋭の横綱「但馬富士」が、外国人横綱であることは承知のことであります。

<厳しい経済環境が予想される日本の若手研究者の将来と国家戦略>
 「頭脳輸出」に耐えられる高質な人材とそれを裏付ける研究業績をもっていなければ、上述のスキームも実現できません。
 また、そのような人材が日本に居ることを世界に伝えねばなりません。
 「人材」そのものが付加価値であり資産であり、それを原資(キャピタル)として海外に輸出し、共同研究やポストの流動性をはかって、我が国の研究力や教育力をグローバルに発展させていく。
 このような国家的な国際戦略が是非とも必要で、若手研究者の「職業死」から守る数少ないアイデアの一つであると考えます。
 たとえiPS細胞で新産業が活性化したとしても、それだけでは全く足りません。やはり、第2・第3のiPS細胞のようなブレークスルーを産むには、「頭脳輸出」などのグローバルでダイナミックな国家戦略が必須なように想われます。