啐啄同時

若手研究者を応援するオヤジ研究者の独白的な日記です。

どこにもなくて、どこにでもあるカスバ

 「涙じゃないのよ 浮気な雨に ちょっぴり この頬 濡らしただけさ ここは地の果て アルジェリア どうせ カスバの夜に咲く 酒場の女の 薄情け〜」と歌われる非常に古い歌謡曲
 「カスバの女」という題名の曲です。教授以上の年代のおじさま達には、何かヨーロッパと北アフリカへの旅愁を掻き立てる曲調が、そこはかとなくジーンと胸に迫ってくるのです。
 「アルジェリア独立戦争」において、フランスにお金で雇われた外人部隊が、当時の植民地を守るため、アフリカ戦線の最前線に次々送りだされます。そんな外人部隊の兵士とパリの「ムーラン・ルージュ」の踊り子のたった一夜の悲恋を切なく描いた歌です。
 非常に古い映画ですが、1930年に制作された映画「モロッコ」や1933年の映画「外人部隊」を思い出させるものです。
 しかし、この「カスバ」という名の街が、どこにもないのです。モロッコにも、もっと言えば北アフリカのどの国にも、「カスバ」という都市がないのです。
 モロッコに行って始めて分かりました。カスバとは、「砦」を意味する普通名詞だったということを・・。したがって、カスバとは、それぞれの都市にはいくつもある砦で、人が一人しか通れないような迷路で囲まれた赤土の城壁を持つ砦のことだったのです。
 そんなカスバのひとつを訪れた時のことを思い出しながら、傭兵や外人部隊を巻き込んだリビアでの内戦、そして混乱を極めるシリア情勢を心配しながら、歌謡曲とは程遠い現実の厳しさを痛感しています。