(1) 分子生物学のセントラルドグマ「DNA -> mRNA -> タンパク質」の下で、タンパク質がmRNAを通してこの順序で遺伝子から産生されますが、そのmRNAをほぼ人工合成し、それを体内のヒト細胞に持ち込んで、ヒト細胞に目標とするタンパク質産生させて、その結果として免疫をつけさせようとするのが、新しく開発されたmRNAワクチンです。
(2) mRNAワクチンに関する基礎研究は1995年から始められ、2005年には基本的なことが発見されました。mRNAを構成する塩基の一部の種類を類似体に変換してしまうと、本来は非常に壊れやすいmRNAが長持ちして、ヒト細胞内でも十分にタンパク質を産生できるという事実が発見されたのでした。したがって、正確には少なくとも15年の研究の歴史がmRNAワクチン開発にはあります。
教授は、だからこのmRNAワクチンは「奇跡に近い!」と言ってもいいと、周りの皆んなに言っています。どうしてかというと、約15年かかってmRNAワクチンをいよいよ実用化しようというところで、コロナ禍がちょうど来たという奇跡のタイミングだったのでした。確かに臨床試験の最後のところは超特急で行われましたが、いわば15年に亘る研究成果の一番最後のステップだけを急いだだけです。
しかも、このワクチンは、タンパク質を使っていないので、タンパク質関係から由来する副反応も従来より理論的には少ないはずで、今までの臨床試験の結果も現在のところ大体予想通りになっているようです。
したがって、遺伝学者の立場からすると、何故「日本人の約30%がこのワクチンの接種を躊躇する」のかが、理論的にはあまり理解できません。
このmRNAワクチンの基礎を作ったのは、米国ペンシルベニア大学の2人(ハンガリー出身の女性研究者で)カリンとかいう人(現在は独のビオンテック副社長)と、ドリュー・ワイズマン(現在も同大学の教授)という教授の2人です。
ビオンテックは、その後ファイザーと一緒にmRNAワクチンを作成していきました。一方、彼らの成果をいち早く見抜いた当時ハーバード大学のポストドクのロッシという人がモデルナというベンチャーを立ち上げて、それをガン治療に応用しようとしますが、その後そのポストドクの人は会社から追い出されて、ハーバード大学の2人の有名教授たちがモデルナでmRNAワクチンを作成していきました。
したがって、ファイザー・ビオンテックとモデルナの基本技術は、根元は同じです。
アストラゼネカやジョンソン&ジョンソンのワクチンはタンパク質型なので、できたらmRNAワクチンを打ちたいところです。なお、中国製のワクチンは旧来型のワクチンでそれこそ安全性試験をすっ飛ばしている可能性が高いので、是非とも避けたほうがいいのかも知れません。
(3) 現地サウジアラビアでも昨年12月にファイザー・ビオンテック製のワクチン接種が始まりましたが、1ヶ月ほどで供給切れとなってしまいました。したがって、もしアレルギーなどの注意すべき要因などがなければ是非早めにmRNAワクチンを打つほうがいいと思います。(mRNAは非常に壊れやすいので、だから超低温保存が必要ですし、余分に体内に入ってもほぼすぐに壊れてしまうはずです。)
(4) 余程の悪条件が揃ったり不運が襲ったりしなければ、特に高齢者は感染した場合の重症化を防ぐ意味でも、急いで接種した方がいいと言われています。